近年、中国では、社会組織による高等教育機関の設置・運営を高等教育の一部として、制度化する動きが見られる。本報告では、公的資源と私的資源の両方を調達・利用し、中国の高等教育の大衆化に対応する一つの手段として位置づけられる独立学院を紹介する。
中国では、昨今の著しい経済発展に伴って、高等教育の規模が拡大しつつある。具体的には1999年の高等教育の募集拡大を契機とし、2012年の時点で高等教育段階全体の学生数は3325万人となり、粗就学率は30%に達した[i]。一方、このようにハイスピードで拡大してきた高等教育への需要に対して、従来の限られた高等教育資源では対応できないといった状況が生じている。こういった問題を改善するため、政府は公財政以外の資源、いわゆる社会資源を利用し、高等教育を充実する方策を取るようになった。こうしたことを背景に誕生したのが、独立学院である。 独立学院とは、一般の高等教育機関と、民間の社会組織または個人とが連携した高等教育機関を指す[ii]。具体的には、独立学院には、以下の3つのタイプがある。1つめは、高等教育機関と社会組織が連携し、運営する民有民営、2つめは、高等教育機関が独自に運営する、または高等教育機関と政府が連携し、運営する公有民営、3つめは、高等教育機関、政府、社会組織の三者が連携し、運営する共有民営である[iii]。独立学院は、2012年までに、中国における民営高等教育機関(原語は、民辦高等教育機関、日本の私立高等教育機関にあたる)707校のうち、303校を占めるまでに、規模を拡大している[iv]。こうした状況からも、独立学院が中国の民営高等教育において、無視できない重要な位置をしていることは明確であろう。 独立学院の発展する歴史を探ってみると、①2003年以前の発足・発展期、②2003年~2008年の政府規範期、③2008年以降の私学への転換期という3つの段階に分けることができる。独立学院は1990年代の高等教育規模の拡大と体制改革により、設置され始めた新しい高等教育機関であって、国公立の普通高等教育機関に附属していたことで、当初は「公有民営二級学院」と呼ばれ、公立の性質を持っていたと考えられる。その後、2003年、教育部(日本の文部科学省にあたる)は、ばらつきのあった民営二級学院を規制することで、高等教育機関の下に設置される民営二級学院を「独立学院」という名称に統一し、従来の高等教育機関との附属関係から「独立」へと変換するように求めた。「独立学院」というのは母体の高等教育機関から分離し、①独立キャンパスと基本施設、②独立教育・管理システム、③独立募集、④独立学歴証明書、⑤独立財務システム、⑥独立法人格、⑦独立民事責任を有するものとされる。こうして、独立学院の独立性が強調され、その自主性が拡大されてきたのである。その後、2008年に『独立学院の設置と管理方法』の公布により、独立学院は従来の公的な性質から私的な性質へと転換され、中国民営教育の一部になった。 制度化、市場原理の導入により、独立学院の自主性、独立性を促進するうえ、その質を維持・向上するという政府の狙いも秘めている。だが、従来の附属する高等教育機関からの比較的に安定な資源が保障しにくくなることで、独立学院が多様な試練に直面することは明らかであろう。また私学への信頼度があまり高くない中国の高等教育において、私学とみなされるようになった独立学院にとって、これからいかに存続していくかは、喫緊の課題であろう。
[i] 教育部『2012年教育部統計データー』http://www.moe.gov.cn/publicfiles/business/htmlfiles/moe/s7567/index.html 「最終確認:2014年9月30日」
[ii] 『独立学院設置与管理方法』第一章総則,第二条,2008年2月22日。
[iii] 樊哲,鐘秉林,趙応生「独立学院発展的現状研究与対策建議―我国民辦高等教育改革与発展探析(ニ)―」『中国高等教育』3/4号,2011年,26頁。
[iv] 「Number of Non-government Education by Type and Level」『2012年教育部統計データーhttp://www.moe.gov.cn/publicfiles/business/htmlfiles/moe/s7567/201309/156892.html 「最終確認:2014年9月30日」