被虐待児・者に対するイメージを用いた心理療法の支援効果のメカニズムが明らかになった
●心理臨床学研究 2014年4月
夢や描画,箱庭療法[i]や遊戯療法[ii]など,イメージを用いた心理療法の被虐待体験を抱えた人に対する有用性は,さまざまな事例研究によって明らかにされています。しかしながら,イメージを用いた心理療法がどのような点で治療的に働いたのかを,成功事例と失敗事例の比較によって検討した研究はこれまでになく,本研究では,心理療法場面での語りを質的に分析することで,そのようなテーマに迫っていると言えます。 この研究では,12の事例を,「外傷体験を意味づけて自己史に組み入れる[iii]」,「外傷体験と距離を取る」,「外傷体験に振り回される」という三つの類型に分類し,それぞれの事例おいて,外傷体験についてどのように語られたのか,イメージ表現によってどのような感情や気づきが生まれたのか,クライエントとセラピストとの関係がどのように変化していったのかを質的に検討しています。 その結果,次の二つが明らかにされました。一つ目は,心理療法の初期には外傷体験が語られず,クライエントとセラピストとの信頼関係が構築してから語られることで,心の中での外傷体験の意味づけが促進されるということ,二つ目は,イメージによって象徴的に外傷体験を語ることで、自己治癒力が働き始め,外傷体験と折り合うプロセスが展開していくということです。 被虐待体験を抱えたクライエントのみならず,心理療法一般において,イメージでの自己表現やクライエントとセラピストとの関係性の深まりは治療の進展に関わる点でありますが,他者からの虐待という大きな傷つきの体験を癒していく過程の中で,それらがいかに作用していくのか,複数事例から示されたと言えます。 今後,より多くの事例を分析していくことや,心理療法の実践へと生かせる知見を導きだすことなどが課題とされていますが,被虐待体験を抱えるクライエントに対するイメージを用いた心理療法の治療機序が提示されたことは,臨床的に大きな意味があると言えるでしょう。
[i] 箱庭療法とは,砂の入った箱に様々なミニチュアを置いていくことで作り手のイメージの世界を表現する,心理療法の一つである。言葉にならないイメージが象徴的に表現されること,それを見守る治療者がいることが重要とされる。
[ii] 遊戯療法とは,子どものための心理療法である。守られた空間での遊びの中で子どもは自分を自由に表現し,治療者はそれを受け止め,子どもの理解へとつなげていく。
[iii] 自己史とは自身の人生のことであり,ここでは,自分自身の人生の一部として,今の自分につながるものとして,外傷体験を組み入れることを指す。
出典:廣澤愛子「被虐待児・者に対するイメージを用いた心理療法の『支援効果の機序』の検討」『心理臨床学研究』第32号、第1巻、2014年、39-50頁。
(報告者 京都大学大学院教育学研究科 博士後期課程 千葉友里香)