アタッチメントスタイルによって心理療法場面での語りが異なる
●Attachment & Human Development 2013年12月
「アタッチメント」とは,乳幼児が苦痛や脅威を感じた際,安全感覚を得るために養育者に近づくことを意味します。また,幼少期からの養育者との関わりの中で各人のアタッチメントの個人差(=アタッチメントスタイル)は形成されますが,成人になっても,重要な他者との関わりによって修正されつつ保持されることが多いとされています。 それでは,精神的に苦しくなったり,不適応状態になったりした場合,その改善のために行われる心理療法での語りにおいても,クライエントの持つアタッチメントスタイルの特徴は表れるのでしょうか。その問いに取り組んだのがこの研究です。 この研究では,事前にAAI(Adult Attachment Interview)を用いて56名の成人クライエントのアタッチメントスタイルを測定し,安定型(人と適切な関係を維持できる),軽視型(人との親密な関係を軽視しやすい),とらわれ型(親密な関係にとらわれやすい)の3つに分類しました(図1上段)。その後,それぞれのクライエントに心理療法を行いました。その心理療法でのクライエントの語りを分析し,語りに含まれる「接触探求」(情緒的接近やセラピストからのサポートにつながりやすい言葉)、「回避」(情緒的接近をしないようにする言葉)「抵抗」(セラピストからのサポートを挫く言葉)を抽出,評定を行いました。 その結果,安定型は,軽視型やとらわれ型よりも「接触探求」が高いこと,軽視型は,安定型やとらわれ型よりも「回避」が高いこと,とらわれ型は,安定型や軽視型よりも「抵抗」が高いことが示されました(図1下段)。さらにこの研究では,クライエントの語りをアタッチメントスタイルごとに取り上げ,その特徴について事例的に考察を加えています。 以上から,アタッチメントスタイルと実際の心理療法での語りの特徴との関連が示されました。多くのクライエントに協力を得て,実際の心理療法場面の分析を行っているところにこの研究のオリジナリティがあると言えます。 出典:Talia, A., Daniel, S.I.F., Miller-Bottome, M., Brambilla, D, Miccoli, D., Safran, J.D., & Lingiardi, V. “AAI Predicts Patients’ in-session Interpersonal Behavior and Discourse: a “Move to the Level of the Relation” for Attachment-Informed Psychotherapy Research.” Attachment & Human Development, Vol.16. No.2, pp. 192-209.(報告者 京都大学大学院教育学研究科 博士後期課程 田附紘平)