第3回 イギリスの教育改革のめざすもの 〜国立教育政策研究所 教育政策・評価研究部 主任研究官 植田みどり〜
日本において学校を設置できるのは、国、地方公共団体と学校法人だけである。その理由は、学校が「公の性質」を持つためであると説明されている。国や地方自治体が公共性をもっているのは当然であるが、私立学校も公共性を保持していると考え、これをも含めて「公教育」という概念で括るという考え方が一般的な理解になっている。しかし公教育というのは国や地方公共団体が組織し提供するものである。医療などの領域では国公立の病院と民間の医療法人や医院がこれに関わっているが、これら両者を一まとめにして「公医療」などという言い方は存在しない。
教育の分野で私立学校も「公教育」の中に含めようとする考え方の中には、「公」という言葉に「公正」あるいは社会への貢献などの意味を感じ取り、また私立学校も広く社会に貢献しているという役割を認知してほしいという気持ちが滲みでている。私立学校は全国的な教育制度の一角を構成しており、正当なる地位を保持していることは間違いない。にもかかわらずあえて私立学校も「公教育」の一部であるとする主張の背後には、公的な事業の一部を実行しているのであるから、公的財源からの支援を求めたいという意図があるからある。もっといえば、私立学校の経営は公的資金からの支援がなければ成り立たないという主張である。
しかしこの主張は正しいのか。日本の私学の殆どは国や地方からの補助金を受けているが、英国の場合にはまったく事情が異なる。英国(連合王国、UK)の学校のうち、約7%がいわゆる私立であるが、これらは「独立学校」と呼ばれている。国や地方から何らの補助金を受けずに「独立して」経営しているからである。たしかに学校の収入の大半は授業料であり、それ以外の副収入は多くない。にもかかわらず補助金なしで経営が成り立っているのはなぜか。学校の規模や対象年齢、立地など条件には大きな違いがあるが、支出に大きな比重をしめる教職員の人件費に関する考え方が日本と全く異なる仕組みが採用されているためである。より具体的には定期昇給期間の縮減と職務給の導入である。このような方式は単に私立学校独自のシステムではなく、公立学校でも適用されており、また社会全体の給与システムやライフスタイルにもかかわるため、即座に日本で実行とはならないであろうが、検討にあたいする考え方であろう。このような制度の抜本改定が必要なのは、単に私学の財源だけの問題ではない。私学にたいする補助金を当然のこととしていけば、「公の支配」を受けることは避けられないし、近年の国や地方の財政危機のあおりを受けて、補助金そのものが消滅してしまう可能性も高い。近未来の財政の仕組みを視野にいれ、経営改善への第一歩が必要であろうことを指摘しておきたい。
<要旨>
私立学校は全国的な制度の一角を担い、社会の発展に貢献している民間事業の一つであり、決して公共事業ではない。したがって公的資金の交付は当然のものではなく、他の民間事業と同じく、独立して経営を行うべきものである。そのため英国の仕組みは大いに参考となろう。経営方式の抜本改革をつうじて、独立自営の道を追求していくことこそが私立学校の独自性の確保につながると考えられる。